最高裁判所第一小法廷 昭和33年(オ)69号 判決 1960年6月23日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理入江口三五の上告理由第一点ないし第三点について。
時効利益の抛棄があつたものとするためには、債務者において時効完成の事実を知つていたことを必要とすることは所論のとおりである。しかし、原判示のような場合には、債務者は時効完成の事実を知つていたものと推定すべく、従つて債務者たる上告人において判示弁済をするに当り時効完成の事実を知らなかつたということを主張且つ立証しない限りは、時効の利益を抛棄したものと認めるを相当とするところ、記録を精査するも原審において上告人が右のような事実を主張且つ立証した形跡は認められないから、原判決が判示弁済によつて上告人が時効の利益を抛棄したものと認定したのは当然であつて、原判決には所論の違法ありというを得ない。それ故、所論は採用できない。
同第四点について。
所論の点に関する原審の事実認定は、挙示の証拠によつて是認できる。所論は原審の裁量に属する証拠の取捨、事実の認定を争うに帰し、採るを得ない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 高木常七)